のりもの

【のりもの図鑑 #05】神戸市電~60年の歴史を紡ぐ 市電の記憶~

神戸市交通局 2025/6/6

1910(明治43)年から1971(昭和46)年までの約60年間、かつて神戸市内を走っていた路面電車、神戸市電。市電の車両は、現在も神戸市内に点在しており、一部では車両の見学ができるところも。残された車両は今も大切に保管され、当時の歴史が多くの人に受け継がれています。

神戸の誇りを乗せて、広島でも愛された市電

ヴィッセル神戸が拠点を置くノエビアスタジアム神戸に隣接する御崎公園内には、「1103号車」が展示されています。

1103号車は長田車両工場製の中で一番新しい車両モデルで、速度や乗り心地は市電の中で最高クラス。市電の廃止後は広島電鉄に移譲され、広島市の市電として約30年を活躍しました。老朽化によって廃車したことをきっかけに神戸に戻り、市電の歴史を物語る情報源として公園に展示されるようになり、貴重な存在となっています。

乗車口が2つ。後部から乗車し、前部から降車するスタイルは現在の市バスと構造が似ています。
当時の1103号車。防振・防音に優れた車両として信頼の置ける存在となっていました。

生きた歴史を辿る、年に一度だけ一般公開される博物館で会える

名谷車両基地では、2025年2月に「神戸歴史遺産」に認定された市電車両「700形(705号車)」「800形(808号車)」や、使われていた車両設備の部品や図面などの関係資料を保管しています。

705号車は1921(大正10)年に製造された車両を、1936(昭和11)年に神戸市電気局の車両工場で改造したものです。市電としては日本初のクロスシート(進行方向を向いた2人掛けの座席)を採用し、「ロマンスカー」として人気を博しました。

車両内は当時のまま保存されています。運転台に立つと、現在の電車やバスとは全く異なる光景が広がります。速度計やブレーキハンドルなど、運転席の機器は現代のものと違い、配置も独特です。市電の運転士は立って前方の景色を見渡し、マスコンハンドルを操作していました。

808号車は、1937(昭和12)年に製造された700形に続く、戦前最後となる新造車です。座席はロングシートとなっており、乗車できる人数を最大限に広げていました。

運転席のスペースは限られていますが、その分座席スペースはゆったりとしています。座席の構造は現在の地下鉄にも通じるものがあり、シックな緑色は歴史と文化が調和した神戸の街にぴったりな雰囲気です。

これらの2両が保管されている名谷車両基地は、通常立ち入り禁止となっているためいつでも見ることはできませんが、年に一度開催されている「交通フェスティバル」などのイベントで限定公開されています。

当時の路面電車としてはかなり珍しいとされたクロスシートを採用したことが大きな反響を呼び、「東洋一」とまで評されていた神戸市電が活躍したのは、50年以上も前。その功績は、今もなお現代を生きる人々の心に深く刻まれています。

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